雄介君と出会ったのは、社会人になってから。
私が就職した文具メーカーに、発注トラブルで電話してくれたのがきっかけだったな・・。
それからは、「早紀さん、早紀さん!」って、何かにつけて気にかけてくれて。二人で遊びに行った水族館もテーマパークも楽しかった。
「早紀さん」が、付き合うようになって「早紀ちゃん」になって・・「早紀」って呼ばれたのはプロポーズの時。
「早紀、俺達一緒になろう。絶対幸せにするから・・」って。
あの時は本当に嬉しかったなぁ。
その後の新婚生活も毎日楽しくて、本当にドラマみたいだったし。
雄介君に愛されて、私本当に幸せだったよ。
そんな雄介くんが、ホテルから知らない女の人と出てくるなんて・・。
誰?
その女の人は誰?
浮気なんかじゃないよね、私だけの雄介くんだよね??
あぁ、これが走馬灯っていうのかな?
できるなら幸せな思い出だけで逝きたかったな。
人生の最後に、最愛の夫の浮気を知って終わるなんて・・最悪だよ・・。
「ーーーーー!!」
「ーーーーー!!!しっかりーーーー!!」
あれ?雄介君の声がする。
神様は私の願いを聞き入れてくれたのかな?
「ーーーー!!頼むーーー!!」
返事がしたい、けど声が出ない。
せめて、目を開けて雄介くんが見たい・・。
痛い、身体が動かない。
でも、雄介君になんとか応えたい!開け私の目!!
あぁ、少しだけ見えた。
雄介君泣いてる・・泣かないで。
私は最後に一目だけでも雄介くんが見れて、幸せだよ。。
「今、目を開けた??」
僅かな変化も見逃さなかった雄介が、叫ぶように続けて呼びかける。
「目、開けたよな!!おいっ!聞こえるか?俺だ、雄介だ!!目を覚ましてくれ!!」
雄介は手を握り、必死に呼びかけていた。
「佐藤さん、どうかされましたか?」
通りかかった看護師さんが通路から顔を出して、雄介に声をかける。
「あ!看護師さん!!今、目を開けたんです。ほんの少しだったけど!!」
「本当ですか?その後は何か反応はありましたか?」
「いや、本当に一瞬で、その後はまた眠ってしまって・・。」
「そうですか。脳内での出血は収まってますし、脳の腫れも今のところないですから、もう少し時間はかかりますが、回復に向かいますよ!佐藤さんも倒れたら大変です、また明日いらしてください。」
「そうですね。どうか二人の事、よろしくお願いします。」
集中治療室での面会時間はごくわずかだ。
何もできない自分がふがいないが、今は他にもやる事がある。
「早紀、どうでした?」
廊下で顔をぐしゃぐしゃにして泣いている真理子に説明をしなきゃいけない。
「二人とも倒れ込んだ時、一段下の階段で頭をぶつけて、打ったみたいなんだ。」
「私が聞きたいのは早紀の事です!!」
あぁ、そうだ。俺がホテルから出てきたのを真理子も見ていたんだったな。
「早紀は、緊急手術は成功したみたいだけど、目をさますかどうかは半々と医者は言っていたな。それより、なんであんな場所にいたんだよ?今日は渋谷じゃなかったのかよ?」
[パチーン]
そこまで言ったところで、真理子が思い切り俺の頬を叩いた。
「何すんだよ?」
「それは早紀のセリフよ!!早紀がいるのに、あの女と何やってたのよ?」
「だから言っただろ、彼女は会社の後輩で相談に乗ってたって!!」
「ホテルで??何の相談に乗ってたのよ??」
「だからそれは見間違いだって。たまたまあの道を歩いていただけだって。」
真理子は泣きながら俺を攻め立てた。しかし、真理子は俺達がホテルから出てくるその瞬間は見ていないはずだ。知らぬ存ぜぬで突きとおせる。
「真理子、落ち着いて。ここは病院だ。俺は本当にやましい事なんてしていないし、今は早紀の回復を願うのが先じゃないか?」
「うわーん!!」
そう言うと真理子は泣き崩れた。いい友達だな・・とほんの少し思いはしたけれど、友達だからこそ変に勘繰られてうるさく騒ぎ立てられるのは困る。
「今夜はもう遅い。送るから、一旦家に帰ろう。」
そう伝え、俺は真理子とタクシーに乗った。
「ーーーーさん!おはようございます!今日はいいお天気ですよ!」
あ、昨日よりしっかり声が聞こえる。
目も・・開く。
「あら!意識戻りましたか?ーーーーさん、わかります?お返事できます?」
喉がガサガサでうまく声が出ないけど、私は返事をした。
「・・は・・ぃ・・。」
「良かった!お名前と年齢言えますか??」
「さ・・と・・う・・さき・・。さ・・ん・・じゅう・・・」
満面の笑顔だった看護師さんは、少し怪訝そうな顔をした。
「痛いところはありますか?」
「・・ぜ・・ん・・ぶ・・。」
「大丈夫、少しずつ良くなりますからね!安心してくださいね!今、先生呼んできますね!」
私は小さく頷き、瞳をキョロキョロと動かしてみた。
とんでもない頭痛がするけど、私生きている!!死ななかったんだ!
次は、ゆっくり右手を挙げてみた。肩か背中を打っているみたいで、打撲のような痛みは走るけど、ちゃんと動く!
どうしてこうなったんだっけ?わからないけど、さっきまで、もう人生終わりって思っていたような気がする・・。
いろいろ混乱する頭でゆっくり思い出そうとした時、その視界に入った自分の右手に、何か違和感を感じた。
たくさんの管に繋がれた右手は痛々しかったけれど、そっと引き寄せて見てみる。
(あれ?こんなネイルしてたっけ??)
雄介君が怒るから、ネイルは特別な日だけにしたはずじゃなかったかな?
そもそもこんなピンクのロングネイルなんて、私好みじゃない気がす・・る・・??
(えっ?誰の手???)
そこにバタバタと男性医師がやって来た。
「花山さん、わかりますか?」
私はパニックになっていた。止まらない頭痛に加え、自分に見知らぬ手がついていて、さらに覚えのない名前を呼ばれている。
私、花山さんなの??
花山さんって誰なの??



コメント