「お前、そんな人見知りだったか?ははは!まぁ座れよ!」
「あ、あぁ・。雪さんがあまりに綺麗だから、緊張しちゃってさ・・はは。」
俺はどこか上ずった声でそう答えると、藤井に促されるまま円卓に座った。
続いて藤井も雪ちゃんも腰掛けたが、3人の微妙な二等辺三角形のような位置取りが、当たり前だけど少し滑稽だった。
「津山、最初はビールでいいか?雪はどうする?」
「私も同じもので。注文しちゃうね!」
さっとタブレットを手に取り、手際よく注文する雪ちゃんを見て・・俺は藤井の言いなりになるようなMっ毛の溢れる女性像を想像していただけに、意外とテキパキしているんだな!と少し驚いた。
「津山、改めて紹介するよ。俺の彼女の雪だ。こう見えてしっかり30代のお姉さんだ。でも可愛いだろ?あはは!!」
藤井の言葉に合わせて、雪ちゃんは再びペコリと頭を下げる。
何とも返事に困る紹介ではあるが、俺もいつまでも我を忘れて腑抜けている場合ではない。呼ばれた男として、しっかりしなくては。
「雪さん、初めまして。いつも藤井からお話しは伺ってます。同期の津山です。ほんとにお綺麗なので、つい緊張しちゃいました!よろしくお願いします!!」
まるでビジネス書の挨拶例文のようだったが、雪ちゃんはそんな俺の目を見つめながらふふふと微笑んだ後
「津山さん、はじめまして雪です。雪さんだなんて、雪ちゃんって呼んでください。ずっとお会いしたかったんですけど、実際お会いすると、とっても素敵な方なので・・私の方が緊張しちゃってます!!へへへ!」
と、綺麗な顔をクシャっと崩して更に笑ってくれた。
それがなんともあどけない笑顔で、胸のあたりをドンっと叩かれたような衝撃が俺に走った。
感情が豊かで、とても素直な女性なんだなと感じずにはいられなかった。
これは、藤井だけじゃなく、男はみんな惹かれるタイプだぞ?と、雪ちゃんの好印象すぎる第一印象に俺はいささか驚いていた。
藤井は、丁度運ばれてきたビールを手に取ると
「まぁ、今日は楽しく飲もうじゃないか!俺は俺の大切な恋人と、友人とで食卓を囲めて幸せだよ!」
そう言いながらジョッキを掲げる。
「おい、親戚のおじさんみたいな事を言ってるけど大丈夫か?」
ガラにもなく真面目な事を言いだした藤井に思わず笑いながら、俺もジョッキを近づける。
雪ちゃんもまた、ふふふと笑いながらジョッキを持ち上げたところで、
「乾杯~!!」
と俺達は初めての共同作業をした。
傍から見れば、本当に何でもない乾杯だったと思うが、それは、それぞれに下心を秘めた3Pの始まりの合図だったのかもしれない。
「雪、津山も俺も腹へってるから、適当にフード頼んでくれる?」
「わかったよー!!津山さんは苦手なものとかありますか?」
「いや、僕は何でも食べれるんで、雪さん・・雪ちゃんにお任せします。」
恐る恐る雪ちゃんと呼んでみたが、雪ちゃんはまたパアッと明るい笑顔で
「嬉しい、雪ちゃんってよんでくださって!!ありがとうございます。じゃあ注文しちゃいますね!」
そう嬉しそうに答えた。
「おい、藤井。雪・・ちゃん、いい子すぎないか?会って間もないが、お前にはもったいない気がしてきたぞ!!」
俺が肘でつつきながらそう言うと、藤井はまんざらでもない顔をしながら
「俺も本当にそう思ってる。俺幸せ者だよな!!」
俺は想像していた2人の関係は、もっと従属的なものだと思っていただけに、ここにも戸惑いを感じたが・・あぁそれはベッドの中だけであって、表面的には良きカップルなんだな!と瞬時に理解をした。
サラダに、なめろう、梅水晶と、酒の当てには申し分ないアテが運ばれてきた。
「少しお料理に時間がかかるみたいだから、とりあえずスピードメニューからです。この後、お刺身の3種盛とカモ肉のソテー、フィッシュアンドチップスが来ます!」
雪ちゃんが、俺を見つめてそう言った。
あまりのオーダーの手際良さと、完璧な組み立てに思わず俺はビックリして
「凄いね!雪ちゃん、完璧じゃん!ちょっとビックリしたよ、俺!!」
思わずそう返すと、
「やだ、そんなことないですよ!お料理、大丈夫そうなら良かった!!」
とまた謙虚な返事を返す彼女。
「お前、雪をどんな低評価してたんだ??あはは!!」
そこで藤井が笑うが、俺はいたって真面目に
「いや、可愛いのにこんなに気づかいが出来るなんて!?めったにいないぞ!!」
と答えた。
料理をつつきながら、ビールが空になった頃合いで藤井が言った。
「せっかく雪がいい感じでフード頼んでくれたから、日本酒でも飲もうか!?雪の好きなの選んで、冷で2合もらってくれる?」
「わかったよー!!お猪口は3個もらってもいい?」
「もちろん!津山も飲めるだろ?」
「あ、ああ。」
藤井が日本酒を飲むところなんてあまり見た事がないけれど、雪ちゃんが好きなのかな?
まぁ、明日は俺も休みだ。たまの日本酒もいいか。
俺はそんな風にぼんやり考えて、運ばれてきた日本酒で再びの乾杯をした。
久し振りの日本酒は旨くて、まさに五臓六腑に染み渡るような感じだった。
しかも、飲み口のいい辛口の冷。気を付けないと酔いが回るぞ。
「雪ちゃんは、藤井のどこがいいの?」
卑猥な意味合いにならいように、色々気を配りながらの質問をする俺。
「おいおい、やめろよ、そういうの!!俺がいるのに、恥ずかしいじゃないか!!」
目尻を下げて、まんざらでもないといった顔にも見えるが、俺の心中を察して笑っているようにも見える藤井。
「えぇっと、誠実なところに、優しい所、男らしい所ですかね♡」
頬を赤くしながらそう答える雪ちゃんの答えも、全く普通の事なのに、事前情報から全て藤井のSEXに関してだろうか?と俺の耳にはフィルターがかかってしまう。
いつか、この顔合わせの先に3Pが待っていると思うと、俺は終始気が気でない所もあった。
雪ちゃんは今日、俺が3Pに値する人間かを見定めているだろうし、俺もまた、この2人に何か裏があるのではないか?と疑っていた部分がある。
当然俺のそんな不安や疑念は、早い時点で雪ちゃんの笑顔でかき消されていたわけで、そんな俺の心の機微を一人高みの見物している藤井は、さぞかし楽しいに違いないんじゃないかとも思った。
「津山さん、とっても素敵だからモテると思うなぁ・・♡奥様が羨ましいもん。」
少しトロンとした目にはなっているが、雪ちゃんはまた俺の目を見つめてそう話す。
「うちの嫁より、雪ちゃんの方がよっぽど魅力的だよ!!」
いささか酒が回ったのか、俺も饒舌にそう返せば
「やだ!もう、津山さんったらお上手なんだから。」
と、また顔を赤くしながらも可愛らしくはにかむ雪ちゃん。
「そうだ雪は最高だよ!!」
冗談っぽく被せる藤井に、もー!と言いながらボディタッチする姿も、いつもの2人という感じで、俺にはとても微笑ましく映った。
手探りながらも、会話をし、酒を酌み交わすことで、打ち解けていく感じがひしひしと感じられる時間だった。
お互いが言葉にはしないが、第一関門突破といった雰囲気を感じとり、えもいわれぬ安心感が俺を満たし、いつになく酒が回っていた。
「そろそろ行こうか。」
そう藤井が切り出す頃には、3人ともすっかり出来上がっていたと思う。
「あぁ。」
と財布を取り出そうとする俺に
「今日は俺に奢らせてくれ!」
と言う藤井。雪ちゃんの手前だから、恰好つけたいのもあるのかな?と思い、俺は素直にご馳走になる事にした。
スマートなテーブルチェックをして、暗い通路を通り、階段を上り、俺達は店の外に出た。
「駅まで歩くか。」
そう言う藤井と雪ちゃんは、しっかりと手を繋いでいた。
この後は2人でお楽しみなのかな?と俺は悟り
「あぁ。今日はご馳走様!」
と答えた。
その時だ。俺の右手をふいに雪ちゃんが握った。
(えっっ??)
俺は突然の手繋ぎに、心臓が飛び出る程驚いたが、雪ちゃんは俺の想像より大分酔っているようだった。
「三人で仲良く帰りましょう~♡」
そう言うと、雪ちゃんを真ん中に、両サイドに俺と藤井という三人で並んで歩き始めた。
知らない人が見たらどう思うんだろう?会社の同期?友人?幼馴染??
俺はあまりに突然の事に頭の中がグルグルとパニックになっていて、その手を振り払うなんてもちろん出来なかったし、むしろ久しぶりに触れた女性の小さな手の感触がたまらなく嬉しかった。
こんなテンションでなら、3Pも悪くはないんじゃないか?
何より雪ちゃんは、いい女だ。抱きたい。
俺は頭の中でそんな事を考えながら、なんでもない会話に相槌を打ちながら、歩幅を雪ちゃんに合わせていた。
どのくらい歩いただろうか?大通りまでもう少し・・といった所で、ふいに雪ちゃんは俺の方を向き、俺にしか聞こえないような小さな声で
「津山さん、このままホテルに行きたいな♡」
と、今日一番の笑顔で言った。




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