「遅かったね」
早苗はまだ起きて、俺の帰りを待っていた。
メイクを落として、パジャマを着ているあたり、今夜も乗り気ではなさそうだ。
俺は自然と乳首の位置を目で探していたが、それも無駄な行為だなと思いバスルームに向かった。
おっと、これじゃまるで浮気をしてきた男みたいじゃないか、何もしていないのに。俺は慌てて踵を返してリビングに戻る。
「早苗、なにか飲むものある?」
「コーヒーか、お茶?入れようか?」
「あぁ、ありがとう。お茶、もらえるかな?」
早苗は手早く湯呑茶碗を2つ用意すると、熱々の緑茶を注いでくれた。
これは、今日何をしてきたか聞かせろってことだな、と察した俺は口を開く。
「今日はさ、藤井が急に誘ってきて、二人で鳥助に行ってきたんだ。なんか藤井のとこの新人が上手くいってないみたいで相談があるって話だったんでな。」
「あら、大変じゃない!大丈夫だったの?」
早苗の返事は軽い、これは少し疑っているのかもしれないな。そう思いながら俺は続ける。
「まぁ、何かフォローを入れないとって話だったんだけど、最悪俺の部署で預かる事は可能かどうか聞きたかったみたいだな。多分無理ではないけど、それは俺の権限じゃ決められない事だから、受け入れ態勢に空き状態があるかないかの雰囲気だけでも確かめたかったんだと思う。」
こんな風にスラスラと言葉が出てくる自分が、なんだか滑稽だった。
女は変わると嘆いていた俺だが、そんな自分もすっかり嘘の上手い夫に変わっていたのかもしれない。
「藤井が話したかったのは、それもあるんだけど、なんか結婚を考えている彼女がいるらしくてさ。」
「え?藤井くんもついにそんなお相手が出来たの??どんな子、どんな子?」
藤井と面識のある早苗は、興味深々といった感じだ。
「いや、俺も写真をチラッと見せてもらっただけなんだが、可愛らしい子だったよ。で、その相談の方がしたかったみたいだな。」
「え?ついに結婚決めたってこと?」
早苗だけではないが、女はすぐに答えを出したがるから話に困る。そんな事言ってないだろう。
「いや、そこまでは、まだまだまとまってないみたいだけど、藤井もどうしたらいいかわからないみたいでさ。そこは先輩の俺に効いてきたわけだよ。」
「先輩って、それは私のおかげじゃないの??」
いや、お前は俺がもらってやったから主婦になれたんだろう?と心で思ったが、早苗の機嫌を損ねても、ろくな事はない。
「そうだな、俺は幸せものだな」
そう静かに答えた。
「今度、藤井が紹介したいっていうから、来月の頭くらいで、また飯にいってくるよ。」
さりげなくそう報告したつもりだったが、早苗は目をキラキラさせて答えた。
「え?それいつなの?私も行きたい!!藤井君の奧さんになる人だったら、お会いしてみたいし!!」
そう来たか、まぁわからないでもない。
「いや、早苗まで呼んだらもう大事になっちゃうでしょ?藤井もまだ迷ってるところみたいだから、まずは俺に見せて反応を聞きたいみたい。いよいよ本決まりが近くなったら、先輩夫婦として会いに行ったらいいんじゃないか?」
「え?そんなものなの?」
早苗は不服そうだったが、
「じゃあその時は、ちょっといいお店に連れて行ってね!あ、新しいワンピースも欲しいなぁ」
ちゃっかり自分の欲求も加えて返事をしてきた。
「ねえ、その彼女、芸能人でいったら誰に似てるの?藤井君年下好きっぽいけど・・」
その質問に俺はドキッとしてしまった。なにせ、藤井の彼女(セフレ?)の雪ちゃんの乱れた姿の写真しか見ていないわけだから、なかなか答えづらい質問だ。
「色の白い・・目のパチリとした・・30くらいの女の子だったよ。特に誰に似ているとかはないような気はしたけど、可愛らしい子だったと思う」
そう言いながらも、俺の脳裏には、雪ちゃんの卑猥な姿ばかりが鮮明にフラッシュバックしてくる。下半身にドクンと血流が行くのを感じた。
「早苗ほどのいい女は中々いないよ。」
最後はそう切り替えると、早苗の目を見て甘い言葉を伝え、お茶を一口飲む。
早苗は早々に俺の欲情を察したのか、そろりと椅子から立ちあがった。
「そっかぁ。まぁ、いつか私もお会いできるよね!!今日は帰りを待ってたから、眠くなっちゃった。私先に寝るね。湯呑、お水につけといてね。」
そう告げると、早苗はもうリビングから出て行こうとしている。
あぁ、今夜も俺とはしないという事だな。
直接断られるよりは幾分ましだが・・なんでそんなに嫌なんだろう?
藤井の女で股間を熱くしている俺も俺だが、好きな時に抱かせてくれない早苗もどういうつもりなんだろう?
「難しいな・・。」
俺はそう呟いて、静かに湯呑をシンクに沈めた。




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